豊浦の民話 - 「十二山の大蛇」


 むかし、由良の十二山に大蛇が棲んでおり、楮の浜の田畑や山にかよう百姓たちが、時どきその姿をみつけては、恐ろしさのあまり気絶するやら、逃げかえるやらして、通行もできないようなありさまだったそうです。
 その頃、楮の浜に田蒲をもっていた徳左ェ門という家の主人は、豪快な気丈者でした。
 ある日、田蒲に出かけると大蛇が現れ、眼の前の道を横切ったので、「汝、明日もまた、ここに現れるならば、真二つにしてくれるから覚悟しろ。」といいました。
 ところが翌日、再び大蛇が現れたので、持っていた大鍬の歯先で真二つに打ち切り、これを藤のつるで結び、海中深く投げすてました。
 しかし、海中に投げすてられた大蛇は、藤のつるから生じた薬汁が切り傷に即効あったものか、二つ切りの胴が合いつながり、人に変化して海中よりいで、徳左ェ門という家の主人の姿となって、温海へ湯治に行きました。
霊湯といわれる温海の湯の効めはすぐれ、傷口もすっかりなおった大蛇は、再び由良の十二山の戻ることにし、その途中、徳左ェ門という家へあいさつに立ち寄り、
 「十二山の大蛇ですが、わたしが悪かったため、さき頃、ご当家の主人から鍬で真二つに打ち切られましたが、藤のつるの薬効で一命をとりとめ、温海の霊湯で傷口もすっかりなおりました。これからは決して姿を見せませんから、どうぞ、さき頃のことはお許し下さい。」
とていねいにお詫びをいったかと思うと、そのまま姿を消してしまいました。
その大蛇は、十二山からのがれて、オクナエゾの沢深き岩室に棲みつき、一切その影さえも見せなくなったということです。また、オクナエゾの沢には、いまなお大蛇の神秘を恐れて、女人の立ち入りが禁じられております。
(寄稿 和田九郎治)